歴史秘話ヒストリアSP「あしたは動物園に行こう」で開園130年を記念して、上野動物園の歴史が取り上げられます。
明治時代に伝わった「伝説の霊獣」シフゾウとは?その背景にある歴史やドタバタ劇とは?
興味があったので、調べてみました。
シフゾウとは
シフゾウは漢字で「四不像」(中国音:スープシャン)と書きます。
不思議な名前ですが、由来はその不思議な外見にあります。
鹿のような角だが鹿ではない
牛のような蹄だが牛ではない
馬のような顔だが馬ではない
ロバのような尾だがロバではない
これら4つの動物の姿のどれにも似ていないので、「四不像」という名前がついたとされています。
ただ、動物学的にはシカ科に分類されています。
シフゾウは古来より、中国北部~中央部にかけての沼地に生息していました。
19世紀半ばには清朝皇帝の狩猟場である南苑をのぞき、絶滅してしまっていました。
いわゆる「野生絶滅」です。
野生絶滅とは、本来の野生状態のものは絶滅し、飼育下もしくは元の生息・生育地とは違う地域で野生化したものしか確認されない場合を指します。
1865年に、フランス人のダヴィッド神父がこのシフゾウを南苑で見つけ、ヨーロッパに紹介すると、その珍しさからたちまち人気に火が付き、動物園などに導入されるようになります。
しかし、19世紀末の洪水や、義和団の乱による戦乱のため、南苑にいたシフゾウの群れは大幅に数を減らし、中国大陸からは姿を消します。
さらに、ヨーロッパに導入された個体も全て死に絶え、20世紀前半には絶滅したかに見えました。
実は、中国大陸からは姿を消しましたが、イギリスのベッドフォード公爵という人物が、動物園からシフゾウを買い取り、自分の荘園(私有地)で飼育していたのです。
ベッドフォード公爵は、シフゾウの繁殖に成功し、個体数は増えていきます。
そして、200頭ほどに増えたところで、世界中の動物園に提供されることになりました。
中国大陸にも「里帰り」し、ついに野生状態で繁殖もするようになりました。
現在日本では、多摩動物公園、広島市安佐動物公園、熊本市動植物園にシフゾウがいますが、いずれもベッドフォード公爵家に引き取られた最後の生き残りたちの子孫ということになります。
ちなみに、中国大陸では野生種が増えていき、1980年代には「絶滅寸前種」でしたが、その後減少し、現在ではふたたび「野生絶滅種」に指定されています。
多摩動物公園には、1963年にヨーロッパからオスとメスの二頭が導入され、紆余曲折ありながらも、順調に繁殖し、現在ではオス1頭、メス3頭が飼育されています。
シフゾウはシカ科の動物。シカ科動物のうち「メスにも角があるのはトナカイだけ」と言われますが、多摩動物公園のシフゾウのメス「エリー」(写真左)の頭には…。東京ズーネット記事☞http://t.co/BnAXbbgP18 (写真右はオス) pic.twitter.com/FsBaUsOFcY
— 東京ズーネット[公式] (@TokyoZooNet_PR) 2015年7月11日
伝説の霊獣・シフゾウをめぐるドタバタ劇とは
伝説の霊獣との触れ込みで、鳴り物入りで上野にやってきたシフゾウですが、すんなり導入されたわけではありませんでした。
1865年にダヴィッド神父がシフゾウを「発見」し、ヨーロッパの人々に紹介した後、最初に手に入れたのはイギリスでした。
清朝政府はロンドンの動物園に5頭のシフゾウを贈ります。
日本政府もイギリスに続けと、上野動物園開園の年である1882年、特命全権大使として北京に赴任していた榎本武揚を通じて、シフゾウを日本へ譲り渡すよう交渉しましたが、清朝政府はこれを拒否しました。
これに応じて、当時首相だった伊藤博文は、1885年、天津条約の交渉のため清国に赴いた際に、李鴻章大臣にシフゾウの日本への譲渡を直談判します。
その結果、1888年、オスとメスの二頭のシフゾウが、「伝説の霊獣」という触れ込みで、ついに上野動物園にやってくることになりました。
この2頭は子供を生むことができたようですが、その子供たちは子孫を残すことはできず、1906年には、上野動物園のシフゾウたちは死に絶えてしまいました。
この顛末を見ていると、人間たちの政治的・商業的な理由に翻弄されているシフゾウたち(に限りませんが)が気の毒に思えます。
本来の環境でないところに囲われて飼われるわけですからね。
動物が不自然に数を減らしたり、いなくなってしまうのは、自然的な力(温暖化や寒冷化、巨大隕石など)の場合も多いですが、人間の乱獲や開発などが原因の場合も(特に近代以降は)多いようです。
シフゾウの場合は、やはり人間が主な原因になっているのでしょう。
アフリカでも、貧しい人たちが象牙や角を求めてゾウやサイを密猟することが問題になっています。
直接的には密猟者が悪いわけですが、本質的にはそれを欲しがる人が多くいるということが問題です。
人間が欲を少なくすれば、動物たちもこんなに翻弄されずに済むわけですが、私たちにはそれが難しいのですよね。
動物園というのは、私たちの「好奇心」や「癒やし」が本来の動機ですが、自然にいる種の絶滅から動物を守るという働きも、皮肉なことに果たしているようです。
シフゾウに関して言えば、野生状態では絶滅に向かうだけですから(実際に現在では野生絶滅に指定されている)、動物園に導入されたおかげで種を保てている、という側面もあるようです。
多摩動物公園をはじめとする日本の動物園にいるシフゾウたちも、絶えることなく、できれば数を増やしながら、種として長く生き続けて欲しいと思います。
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